預金口座への差押における悩み①

 近年感じていたことですが、官公署による租税公課の徴収姿勢がかなり厳しくなっていると思います。それは金融機関への預金口座差押及び税務調査等の急増に現れています。

 預金口座への差押はある日突然やってきます。しかも国税徴収のためだけではありません。地方税社会保険料の徴収を目的とした差押も多いです。

 

強制執行

(民事執行法)

滞納処分

(国税徴収法)

債務名義(≒裁判)

不要

取立権発生時

債務者への送達から1週間後

即時

 国税徴収のための差押・取立を一般に滞納処分と呼びますが、一般の債権に基づく強制執行と異なり上記のように強力な執行力を持っています。地方税社会保険料の徴収も「国税徴収法に規定する滞納処分の例」「国税徴収の例」により国税徴収と同様の執行力があります。

 もし差押を受けた預金者が金融機関から融資を受けていれば、取引約定書の「期限の利益喪失条項」によって融資金の期限の利益を失い、事実上倒産に追い込まれかねない恐ろしい事態です。したがって滞納処分は「官公署としてあらゆる回収手段が尽きた先の万止むを得ない措置」として欲しいところです。

 ところが実際は差押に驚いた預金者が慌ててお金を納めたら差押を引っ込める、いわば「脅しとしての差押」が少なくない。徴収担当者に話を聞くと「督促状を送ったのに音沙汰がない」と言うものの、こちらから電話すると普通に通じて「寝耳に水」ということもあります。そんな時は尚更、期限の利益喪失を招きかねない(社会的)影響の大きな預金差押なのだからせめて1本電話すれば良いのに…と思います。

 

 この差押の前段階にあるのが官公署から預金の有無を照会してくる税務調査等です。調査依頼書は今や毎日のように金融機関に届いており、通常業務の大きな支障となっています。なにしろ問答無用で期限を切られて回答を求められるのですから。「費用は負担します」と言ってくる例もありますが、お金の問題でなく調査・回答を処理する人員がいないのです。(余談ながら改正民事執行法で定められた「第三者への情報取得手続」が始まったら、更に膨大な量の調査依頼が届くのだろうかと思うと暗雲たる思いです。)

 

 ところで、地方税社会保険料の徴収における差押通知書や調査依頼書にはよく先述のように「国税徴収法に規定する滞納処分の例」「国税徴収の例」による、という用語が使われています。この「例による」というのは「地方税社会保険料の徴収についても国税の徴収に準じるよ」という意味です。
 しかし法文の準用は通常「第○条を準用する」「第○条第○項本文を準用する」「第○条第○項の「○○」とあるのは「××」とする」「第○章第○節第○款(第○条第○項、第○条第○項を除く。)及び第○款並びに第○節から第○節までは適用しない」等のように厳格に規定するものです。それが「例による」というだけで国税徴収と同等の強力な執行力が得られるというアバウトな規定ぶりには強い違和感を感じますね。