預金口座への差押における悩み②

 給与債権を差し押さえようとした場合、給与所得者の生活を保護するため給与の「全額」を差し押さえることは出来ません。差し押さえることができるのは原則として「給与の1/4まで(養育費等の為の差押の場合1/4→1/2に拡大)」です。そして差押債権者が取立を完了するまでの間、差し押さえられた債務者は裁判所に申し立てることによってこの差押される給与債権の範囲を更に縮減することが出来ます。

 ところが差押債権者が取立可能となるのは債務者への差押命令送達後1週間で、その間に債務者が差押範囲縮減の申立をすることは事実上困難でした。

 そこで改正民事執行法では給与等の債権差押について取立権の発生時期を遅らせ、原則債務者への送達後4週間後とされました。第三債務者としては「いつ支払って良いのか」よく確認しなければなりません。

■債務者への差押命令送達後いつから差押債権者の取立権が発生するか

一般債権

給与債権

養育費等のための差押

その他

1週間

4週間

 

 問題は「給料が振り込まれた預金口座」は給与債権なのか普通の預金(一般)債権なのかということです。もし給与債権と解されるならば、債務者への送達から原則として4週間経たねば差押債権者に支払えません。(養育費等のための差押の場合は従来どおり1週間で支払える。)

 一般的には預金口座に給料が振り込まれたら、それはもはや給与債権ではなく預金債権となります。預金口座には流動的に入出金があり特定の原資のみを観念し得ないからです。
 しかし例えば給料支給日の朝にその預金口座が差し押さえられてもそれで良いのでしょうか。滞納処分の例ですが佐伯市H29.10.13裁決では「預金債権の差押が給与振込直後であったため、実質的に給与債権の差押にあたる」として滞納処分の一部が取り消されています。

 そうすると金融機関としては差押の取立支払事務を機械的に処理してはいけないということになります。取立権を行使してきた差押債権者の本人確認等を別として、確認するべきことは下記3点。

  1. 債務者への送達日はいつか。
  2. 差押送達時直前の入出金状況から見てそれが給与債権の差押と同視しうるのか。
  3. 請求債権に「扶養債権等の債権」が含まれているのか。

 従来は上記1だけを確認すればよかったところ、今後は2,3も点検しなければ、取立権を行使してきた差押債権者に対する支払可能時期が到来しているのか否か正しく判別できません。金融実務上、上記3はともかく、2は判断する余裕はないと思われます。

 

 給与振込の場合は「振込」「振替」でなく「給与」「賞与」と通帳印字される業界慣行が確立されるか、或いは差押債務者への送達時より1~4週間の間の取立については機械的に弁済供託することで取立訴訟を回避する(供託原因は債権者不確知?)、そんなことが可能でしょうか。