司法書士試験経験者の調査士試験対策

 去る2/12に令和2年度土地家屋調査士試験最終合格者の発表がありました。これでやっと調査士試験卒業になります。例年なら法務局で合格証書授与式があるようですが、コロナ禍の影響か今年は何の案内もないので、おそらく郵送されてくることでしょう。

 調査士試験卒業ということで、特に司法書士試験経験者が調査士試験対策をするときのポイントを記しておこうかと思います。全体として言えることは「民法や不登法について既習であり択一においては確かに有利だけれど、決してなめてはいけない」ということです。
 権利変動の過程を忠実に公示する権利の登記と不動産の物理的現況を公示する表示の登記では考え方が異なる部分があり、頭を切り替える必要があります。そして記述式は司法書士試験におけるそれとはかなり違う、全く未知の作業になります。

1.択一
(1)民法
 民法司法書士試験時代の蓄積があれば十分です。制限行為能力者や代理、177条関係、親族相続あたりは解けると思うので、「条件・期限」「相隣関係」「添付・付合」といった調査士試験でお馴染みだけど苦手という分野があれば思い出しておく位です。
 …と言うものの3問中1問でも落とすと痛いですね。択一は司法書士試験と異なり僅か20問しかなく、1問の重み=1問差にひしめく受験者数が非常に大きいのです。
(2)調査士法
 条文を見れば分かるように調査士法と司法書士法はそっくりです。司法書士法が抜けてしまっている場合はもう一度勉強が必要とはいえ、すぐに思い出せると思います。
(3)不登法総論
 司法書士試験で飛ばした「表示」の部分は未修です。総論は既習と侮っていると痛い目を見ます。流石に「登記識別情報」のあたりは解るものの、しっかり勉強しなくてはなりません。
 各論でもありますが表示登記の大枠として「報告的登記」と「形成的登記」の峻別が非常に重要です。ところが僕はなかなか慣れませんでした。形成的登記と聞くと「共同根抵当権関係」「設立」みたいに「登記が効力要件」という頭があって、そう考えるとはまってしまいます。
 「オンライン申請」では表示登記にしかない特則があったりします。
(4)不登法各論
 司法書士試験での蓄積がありません。土地・建物・区分建物と一から十二分な勉強が必要です。そして司法書士試験対策時とは表題部を見る目が変わってくる筈です。
 各論は区分建物の「敷地権」の理解が天王山でしょう。区分建物は司法書士試験でも何となく苦手な分野でしたが、調査士試験で敷地権をしっかり理解すると、それも「そういうことだったのか」と分かります。こと敷地権の理解に関しては調査士がエキスパートだと思います。
(5)筆界特定
 ここも司法書士試験での蓄積がありません。一から十分な勉強が必要です。因みに認定司法書士は一定額の範囲で筆界特定業務が出来ますが、全く勉強してないですよね。調査士試験の勉強をして良かったです。
   択一は過去問10年分くらいをひたすら回すことで基準点は超えられます。ただ満点近くを目指すとなると、近時の調査士試験において過去問10年分くらいでは不十分ですね。もっと古い過去問や答練・模試等で知識を補充すべきです。僕はたまたま司法書士試験対策での蓄積が役立っただけで、それが無く過去問10年分くらいを回すだけでは満点は無理だったと思います。

2.書式
 司法書士試験での蓄積が一切なく、なすべき登記の決定の次に「計算」「作図」という未知の作業を行わねばなりません。
 この作業の習熟には手を動かすしかないところ、脳内で答案構成できた司法書士試験の記述式と異なり、「計算」「作図」はどうしても一定時間、机に向かって作業しなければなりません。司法書士試験勉強時代に通勤時間等の隙間時間で勉強をしていた人は「机に向かう時間」をなんとか捻出しなければならない、ココが大変です。ドトールの小さな丸いテーブルで電卓と解答用紙と三角定規を広げて作図するのは大変でした。
 予備校を利用するメリットは主にこの記述式攻略にあるでしょう。司法書士試験と同じように「択一で高得点を取り、記述式で安定して基準点を超える力を付ける」それがセオリーです。と言いつつ僕は最後の最後まで記述式は苦手でしたが…。
 作図は三角定規2つを駆使して図面を書きます。座標値計算ではこれまで触ったこともない関数電卓を叩きます。計算においては複素数計算を使う派・使わない派がいて、僕は使う派です。作図に時間がかかり複素数計算で時間を節約しないととても時間内に解けないからです。数値切捨てタイミングの問題で三角関数真数表での計算と複素数計算とで結果がずれる問題もあり得ますが、気にしないで交点計算も含め複素数計算一本でした。僕は基本講義をLECで受講しましたが、複素数計算ではアガルートの講義が群を抜いていました。

 こんな感じでしょうか。参考になれば幸いです。